ここでは、医科の健康保険の保険診療について、その中でも、医科・クリニックへの個別指導(行政指導)、監査、取消処分の実例についてご説明します。
保険医療機関の取消事例は、取消後の一定期間、各地方厚生局から公表される運用がなされています。そこでの資料から、いくつかの取消し事例をご紹介します。
1 振替請求の情報提供で個別指導が開始した事例
以下の事例を簡単にご説明します。
個別指導では、関係者(退職したスタッフ、身内、患者など)の情報提供により個別指導がはじまることがあります。匿名でなされることもあれば、身元を明かして実名でなされることもあります。もちろん、実名でなされた方が重みがありますが、内容により、匿名での情報提供でも、厚生局が指導監査を実施することもあります。
情報提供での個別指導の場合、具体的な不正請求の疑義が厚生局側に生じている状態で指導が開始されるため、いわゆる高点数の指導に比して、監査に至る可能性が高いといえます。
本事例では、後発医薬品を調剤していたのに、先発医薬品を調剤したものとして保険請求をしているとの情報提供がありました。
以上のような状態である場合、日計表や薬剤の納品書などがつじつまが合わなくなり、不正が発覚することがしばしば見受けられます。本事例でも、購入実績の確認ができないなどし、監査に至っています。
個別指導の段階では、正直に不適切な行為を認め反省の態度を示すと、厚生局は再指導で様子を見てくれることもあるのですが、監査の段階になると、不適切な行為をしていた場合は、取消処分に結び付きます。
本事例では、架空請求、付増請求、振替請求が認定され、取消相当に至っています。不正請求の金額が8万7599円、不当請求の金額が4万384円です。金額的には少額ですが、監査で認定されなかった不正請求についても、自己点検の上で返還することが求められます。不正請求の金額について返還をしなかった場合は、保険医等の再登録の際に、不利に考慮されることになります。
2 架空請求で逮捕・報道され個別指導が開始した事例
また、刑事事件が絡む事例もあります。 平成27年12月付けの近畿厚生局の事例です。
この事例では、まず、大阪府に対して、来院していないのに来院し診療したことにして診療報酬を請求するという、いわゆる診療報酬の架空請求の情報提供が複数ありました。また、近畿厚生局に対し、知人の外国人の国民健康保険の被保険者情報を受け取り、それに基づき診療報酬を不正請求しているとの情報提供がありました。
その後、開設管理者である医師が、診療報酬の不正請求で、詐欺の容疑で逮捕されたとの報道がありました。
以上を受け、厚生局が個別指導を実施し、不正請求の疑義が濃厚となり、監査に移行し、実際に行った保険診療に行っていない保険診療を付け増して、診療報酬を不正に請求していたことが確認されました。不正請求の金額は、18万6144円です。
以上のように、健康保険の診療報酬請求に関して刑事事件となった場合は、事後的に厚生局が動き、保険医の取消しなどの処分がなされることが通例です。刑事事件化した場合は、厚生局は厳しく対応してきますので、保険医の取消しと医業停止は避けられないことが多いかもしれません。
なお、保険医療機関等(医院など)の取消処分の事例は、それぞれの厚生局のウェブページにおいて、一定期間、公表されています。また、マスコミで取り上げられ、マスコミでニュースになることも多く、医科の医療機関の場合、ニュースになるもの想定しておくことが穏当です。
Comments